〇パチスロ攻略マガジンドラゴン2019年9月号より転載

2007年春、ヘミニク少年20歳。

東京の専門学校を卒業した彼は、静岡の自動車関連会社に就職した。

なぜ地元の福島ではなく静岡なのか、その答えはいたって単純で、彼は自動車を開発する仕事に就きたかったのだ。

静岡にはソレがあり、福島はない。

よって静岡に移住するほかなかったのである。

3月中にはアパートを探し、新生活の準備を進める。

借りた賃貸は会社から車で30分ほどの距離に位置する家賃5.5万円の物件。

新しいし、部屋も広い。

なかなかの良物件である。

彼はこれから始まる社会人生活に胸を弾ませていた。

しかし、大きな問題がひとつあった。彼は車を持っていなかったのだ。

車で30分ということは、距離にして10kmはあり、とても歩いて行ける距離ではない。

どう考えても車は必須なのだから、さっさと買わなければいけないのだが、彼にはこだわりがあった。

車は絶対に 「ハチロク」 が欲しかったのである。

ハチロクとは、1983年に発売されたトヨタの車で、正式名称をカローラレビン、もしくはスプリンタートレノという。

「頭文字Dの主人公の車」 と言えば、お分かりいただけるだろうか。

ハチロクが欲しかった理由もこれまた単純で、前述した頭文字Dの影響である。

というか、彼の車好きは8割が頭文字Dのせいだと言っても過言ではない。

しかしながらハチロクは古い年代の車ということもあって、そう簡単に入手出来る訳ではない。

ネットや中古車情報誌を駆使し、ようやく状態のいいハチロクを発見出来たのは、埼玉県の専門店だった。

だが、どう頑張っても納車までには1ヶ月以上かかる。その間は車なしで会社に通勤せねばならなかったのだ。

そこで彼は、たまたま同じ会社でたまたま同じ新卒でたまたま同じアパートに住んでいた同僚の男に、車が納車されるまで会社に連れてって貰えないかとお願いすることにした。

名前は…申し訳ないが覚えていない。

目を二重にプチ整形していたので、プッチとでも呼んでおこうか。

そしてプッチはこのクソ面倒くさいお願いを快く引き受けてくれた。

はっきり言って、自分だったら断っている。

プッチはとてもいい奴だった。

そしてやってきた出社初日、前日の夜緊張であまり眠れなかったヘミニクは、大いにやらかしてしまった。

始業時間は8時15分だというのに、目が覚めたのは8時。

会社までは車で20分、しかも彼は車がない。

そしてプッチの姿もない。

つまり初日から大遅刻確定である。

あまりのことに冷静な判断が出来なくなった彼は、急いで部屋を飛び出すと、そのまま徒歩で会社へと向かった。

これまでの無計画さのツケが回ってきた瞬間である。

車にしても寝坊にしても、もうちょっと考えてやればこんなことにはならなかっただろう。

後悔と自責の念に駆られながら30分ほど歩いたのち、通りがかったタクシーを捕まえてなんとか会社には到着した。

およそ午前中とは思えないほど疲弊した姿で 「おはようございます」 と仕事場のドアを叩いた。時刻はすでに9時半を回っていた。

「起こしには行ったんだけど、俺も遅刻しそうだったから置いてった」 そうプッチは言った。

初日からどこぞの無計画野郎のせいで遅刻しそうになるなんて、プッチも散々だろう。

同情せざるを得ない。

会社にしてもそうだ。

とんだ貧乏くじを引かされてしまったと思ったことだろう。

こうしてヘミニクの波乱に満ちた出社初日は幕を閉じた。

当時を思い返すと、考え方や行動がまるで未熟であったと思い知らされる。

学生時代パチスロで何度も破産しかけたように、自制心が備わっていなかったのだろう。

そのことによる苦悩は社会人になってからも継続していた。

「なぜ、俺はこうもダメなんだろう」 と。

そして就業後は、現実から逃避するかのように近場のパチ屋へ向かったことは言うまでもない。

今回の格言
自分を制する者が
パチスロも人生も制する

スプリンタートレノ（トヨタ）

今回はパチスロの話題に触れていなかったので、当時の愛車をば。

名をスプリンタートレノ、通称をハチロク。人気マンガ頭文字Dの影響で中古価格が高騰し、状態の良いものは150万円を超えた。

ヘミ少年は状態そこそこのドノーマル車を100万円で購入。

もちろんローンである。

遅刻、特に寝坊だけは早々に治すようにした方がいい。

寝坊でどれだけ社会的期待値を失うか分からない。

目覚ましを4つ買ってでも寝坊だけはしないようにしろ。

癖になると治すのは困難になるぞ。